「ナオキ…私…やっぱり産みたい…」
「は?おろしてへんのか!?何しとんねん!戻れ!!」
「嫌!」
必死で首を振る私を引っ張り、引きずる様に病院へ戻ろうとする。
私も必死で抵抗を続ける。
「待って!お願い!待って!あの病院は嫌!」
「なんでやねん!」
「なんでって…なんでも…」
これは経験者にしか分からない。
『ここは嫌…』
という感覚。
そんなのはナオキには通用しない。
「どこ行っても一緒じゃ!ここやったら保険証もなんもいらんねんぞ!はよ行って来い!」
「お願い!今日は嫌!お願い!」
シバかれた。
人も車もチョコチョコ行き交う道端で、殴られ、蹴られ、泣きじゃくる私は放って行かれた。
私の中に、1人で出産という選択肢はなかった。
父と母がいて、初めて子供が産まれる。
そうじゃなきゃいけないと思っていた。
きっと、自分の家族がバラバラだから、そう思っていたのだろう。
そして、ナオキにも出産という選択肢はなかった。
