傍から見ればただのカップルの乗った車。
何の問題もない。
終わった…
拉致されて、この時初めて絶望を感じた。
私の腕をずっと掴んでいた男は、どんな気持ちでいたんだろう。
静かに、ゆっくりと暗闇へと消えてゆくパトカーを、まるでこの世との別れのように私はずっと見つめ続けていた。
え…?
パトカーが…
止まった…?
パトカーから制服を来た警察官が…
こっちへ…
来る…?
何?何?
分かんない、分かんないけど…
こっち!
こっちへ来て!
お願い!
そう!
こっち!!
本当に…
来た…
私の声が…
聞こえたん?
1人の警官が、私の座ってる助手席の窓をノックした。
運転席の男が再度
「何も言うなよ」
と、小声で念押しした。
警官によって、助手席のドアが開かれた。
「タチバナ…ユウカさんやね?」
???
何で私の名前を知ってるんやろう…
この人、知り合いやったっけ?
頭が上手く働かないまま、私は小さくうなずいた。
太くて、包容力があって、優しく、でも力強い声で警官は言った。
「もう大丈夫やからな!」
