キスして、なんて言えない。
だけど颯の唇が
あたしに触れた事が
頭によぎる。
あたしには…
拓也がいるのに。
「汐音、中庭にいこっ」
笑いかけられるだけで、
そんなこと考えていられなくなる。
今まで一度も、
拓也だって他の子が
いるんだから
同じことしてもいいなんて、
思ってなかった。
今も思ってないけど、
颯といることに
嬉しいと思っているあたしがいる。
拓也のことを考えると苦しいのに、
颯の事が離れない。
「……颯、待って」
手を引く颯に言うと、
首を傾けた彼が目に入る。
苦しい。
ねえ、どうしたらいいの?
優柔不断で、フラフラしてて。
最低な女だってわかってる。
勝手に…颯の傍にいたいかもって
思ってる。

