喧嘩を売られていた相手は、紛れもなく及川脩だった。


濃紺の学ランに、栗色の髪、陶器のような白くて綺麗な肌の美少年は、
胸ぐらを掴まれても顔色1つ変えないままだった。


むしろ、余裕さえ感じられるその態度にたじろいだのは金髪男の方だった。





「―…今さぁ。
俺、人待ってんのね?」


ゆっくりと口を開いた及川脩は、蕾たちの知らない顔と声だった。


「だっ…だから何だよ!
俺達だっててめぇに用あんだよ!」


グッ、と胸ぐらの手に力を入れて、金髪男は周りの仲間達に「そうだろ!?」と同意を求めた。


蕾が仲間らしき3人の男子生徒に目をやると、そのいずれもが痛々しい傷を作っていた。




「はぁ?
ていうかそもそもお前誰だよ。
勝手に恨み抱いてんじゃねーよ」


「ふっふざけんなてめぇ!
この傷は全部昨日お前からやられたんだよ!!」


「んなモン覚えてるワケねーだろカス!
いーからさっさとこの手どけろや」


及川脩は吐き捨てるように言うと、胸ぐらに置かれた手首を掴み、
男の悲痛な叫びと共に一瞬でひねり上げてしまった。


「分かったらサッサと散れっ」


しっしっ、といかにも嫌そうな顔で手を振った及川脩に、
蕾たちが唖然としたのは仕方がない。