ぞわぁ〜っ。

「…っ寒気が!!」


少し暑いくらいの空調の電車の中で蕾は小さく叫んだ。



「全力疾走して汗かいたからじゃないのぉ?
急に走りだしたりして…びっくりさせないでよね!」

「春っつってもまだ夜は冷えるからな。
ちゃんと汗拭いとけよ?」

そう言って亮が蕾に渡したのは某高級ブランドのロゴが入ったタオル。

蕾はそれを
「サンキュ、」
とだけ言って遠慮無しに汗がしたたる顔を拭いた。

亮のもとに戻ってきたときには汗で取れた蕾のメイクがボロボロとくっついていたが、亮は気にすることもなくカバンにしまった。



「つーかさっきの男誰なんだよ?」

眉間に深いシワを寄せた雅人が問い掛ける。

手には相変わらず携帯。
指先だけがせわしなく動いている。



「前に学生証拾ってもらった人。
何かアドレス聞いてきた。

…何、妬いてんの〜?」

「な、んなっ!!バカかお前!!
んな訳ねーだろこのブス!!」

「あ〜ハイハイ」

「ってめぇ聞いてんのか!!」

口調は荒いものの、耳まで真っ赤にした雅人では些か説得力がない。



横では由紀と亮が「やれやれ」と言った表情で顔を見合せていた。