『殺されてぇのか』

このたった数分の間に、2回もその言葉を口にした悪魔。


けどその後普通に話し掛けてきたとこからすると、たぶん本気で言ってるわけじゃないんだと思う。

そりゃ本気だったら心の底から困惑するけど、こいつならあながち本心かもしんねぇ……と思ってしまうのは、発してるオーラのせいか。


……口癖、なんだろうか。


あんな物騒な言葉が口癖なんて、悪魔はやっぱり悪魔なんだと思い知らされる。


でも。

名前、呼んでくれた。


私の言葉を、ちゃんと聞いててくれてた。


悪魔はズルい。


自分は無愛想なくせに。

私を恐がらせたり、泣きたくさせたり……嬉しくさせたり。


なんで。

なんで、いつもいつも……。


私が勝手に振り回されてるだけなんだけど、すごく悔しい。


でも、だからだろうか。


私が苦手とする要素をギュッと集結させて、1滴の温かさを垂らして固めてニンゲンの形にしたような、この男に。

私はいまだかつて感じた事のないくらい強く、惹き付けられる。



『──クマタ』

低い声が、脳内に優しく響いた。





──窓から僅かに差し込む、温かい春の光。

優しい木の香りが漂う、薄暗い暗闇の中で。


私は少しだけ、泣いた。