悪魔のいる教室

春風のように穏やかなバリトンボイスが耳に吹き込み、私は階段の中腹辺りで立ち止まった。

振り返ると、私の3段下に五十嵐くん。

自然と私が彼を見下ろす形になる。


「佐久間の弱みって、熊谷さんだよね」


墨を薄く絡めたような曖昧な視界の中、彼の口角が僅かに吊り上がったのがハッキリとわかった。


──言葉がみつからない。

いや、見つからないわけじゃない。


『んなわけない』とか『いきなりどした?』とか、頭に浮かんではいる。

ただ声にならないだけで。


……まただ。

けど今回は──……誰もいない。


──佐久間の弱みって、熊谷さんだよね──


ドクン、と心臓が熱くなった。

それと同時に、この階段も気味の悪い空間へと変化する。


──パタン。

乾いた音をたて、五十嵐くんが私に近づく。


そして、もう1歩……1段下だと、目線の高さは私とほぼ同じ。


さっきより近づいたにも関わらず、目の前の表情からは感情が全く読めない。


笑ってるわけじゃないし、睨んでるわけでもない。

無表情。