亀村山町の不思議な出来事

 教師・高橋を振り切った竜司はのんびりと帰路についていた。
学校からの下校に何故これほど体力を要するのか、どうにか走らずに簡単に帰宅できないものか…少々考えていた。
 それが悪かったのかもしれない。

 気がつくと、いつもの道ではない。

 慌てて周囲を見渡すと、団地がある。おかしい、通学途中にこんな団地は通らない。そうだ、この団地の手前の道を帰るんだ。曲がる道を一本間違えただけだ。そうだ! そうに違いない! そうじゃなければ道が分からない!

 記憶の糸を必死で手繰り、この道についてどうやって脱出したかを思い出そうとした。

 しかし、よみがえってくるのは同じような場所で、同じように迷い、同じように悩んでいたことだけである。
 思い出せそうにもないので、とりあえず歩く。歩けばキットどこか知っている場所に辿り着く。
 小さな希望を胸に少年は一歩を踏み出した。



   そして

  再び迷っていることに気がついた。

 ついでに、同じように迷っていたのに気付いたのも思い出した。
思い出さなければ良かったと落ち込むのである。
 どうしてこう道に迷うんだ、俺は。生まれてこの方この町に住んでて、何故? どうして? どうやって? 高校生にもなって迷子になるんだ?!

   それはきっと方向音痴だからだろう。

 だんだんと、辺りが薄暗くなってきた。月が姿を現し、街路灯にやわらかい灯りがともる。
 諦めたように、一歩一歩、歩き始めた。
 そして、いつの間にか見覚えのある道を歩いていた。そうと知った途端に心が軽くなった。よかった! 帰れるじゃん!
 迷った遅れを取り戻すかのように家へと続く道を走った。

そこからは道に迷うことなく自宅へ辿り着いた。

 しかし、おかしなことが起こっていた。
 
明かりが点いているのである。
 おかしい。一体誰がいるんだ? 母さん? 父さん? いやいや、しばらく帰ってくるはずがない。泥棒か空き巣か…それにしては今頃に明かりをつけているなんて変だ。
 不審に思いどうしたものかと動けずにいると、中から足音がする。

ドアが開かれた。