亀村山町の不思議な出来事

柴 茉利亜曰く、体力のある、正義感のある、モラルもある、頭の良い、チョッと間が抜けたスゴイ子は、

「竜司《りゅうじ》!! 補習ぐらい受けて帰れ!!」

「嫌だね!」

数学教師 兼補習組捕獲団の高橋豊《たかはし ゆたか》に追われていた。
 
 東高校(あずま)一年生。田所竜司《たどころ りゅじ》男子生徒は、廊下を全力で追ってくる教師から必死に逃げていた。
 一階の下駄箱に直行したのでは、捕まってしまう。捕まってしまえば、そこは体格差がものをいう。二十五歳の体育科顔負けの運動神経の教師(何故数学を教えているかは不明)と、十五歳の現役高校生の身長ちょい低めの生徒では、生徒が不利なのだ。

「廊下を走るな!」

「『教師が』を付けて返す!」

 皆さん廊下は静かに歩きましょう。

いつの間にか、三周も同じところを回っているのにも気がつかず、竜司は急に窓へと飛びついた。
 驚いた教師・高橋は慌てて同じ窓に飛びついたが、竜司の姿は、既になかった。

「こら! 卑怯だぞ! そんなところを使うな! 緊急時のみだ!」

 避難通路を利用されたのだ。日常生活で利用される通路のほかに火災などの緊急事態時に使われる通路だ。教室の窓から行き来が可能で、コンクリートなどでできている。一部は階段になっているものがあり、今回はそこから逃げられた。
 猫などの小動物が日頃は利用するスペースで、通常は危険なので誰も使わない(使えない)狭い足場を利用して逃走を図る。死亡保険には入っているのか?

「今が緊急時だ!」

 と、言い放ち一階の渡り廊下を走った。下駄箱のある方向だ。
高橋も走った。距離としてはさほど変わりはしない、脚力に自信がある数学教師は下駄箱へ向かった。
 下校ラッシュも終わり、数人の生徒を見かけるのみとなった廊下を駆け抜ける。

 自分でもなかなか速いと思えるようなタイムで下駄箱に到着した。油断をしているだろう竜司がもうそろそろやって来るはずだ。
 内心ほくそ笑みながら待っていた。

 しかし、なかなか来ない。不安になり辺りを見回す。同じところにとどまっておくのが苦手なのだ。その性分から待ち伏せるよりも追いかけるほうが多い、だから今日も逃げられるのである。