ラスボスを首領とも思わない幹部の三人を残し、嬉々として老人は部屋を出た。
「さて」
 首領の孫娘こと柴茉利亜《しば まりあ》は真剣な面持ちで口を開いた。先ほどとは大違いだ。

「これからが本題ですね」
 眼鏡を掛けた男こと鳥羽菜月《とば なつき》が切り出した。老人の承諾を得ずとも、押し黙らせることも、無理強いさせることも出来たのだ。あえてそれをしなかったのはダダをこねられるのが面倒だったからに過ぎない。

「やっぱりアレか…新商品の」
 日に焼けた男こと立川豊《たちかわ ゆたか》は長身を折り曲げて、上目づかいに言った。

「そうなのよねー。桃型をセット化して売り出すべきか、ブルーベリー型を売り出すべきか悩むところよねー」
 腕組みをして、私は悩んでいますといった風に考え込む。上体を反らしたり、首を曲げたりしながら唸っている。
 その姿はまるで、昼食を購買で買うものを悩んでいる三時間目、数学授業中の高校生の姿である。周りから見ると公式で悩んでいるように見えるが、その実、バターロールにしようかクロワッサンにしようかとなやんでいる。
 つまるところ、頭の中など覗けないのだ。

「セット化にも限度がありますから。両方というわけにもいきませんしねぇ」
 こちらも考え込んでいるが、眼鏡越しなのでその目が何を見ているのかはうかがい知れない。目を閉じて眠っていても分からない。

「じゃあ。ほうれん草型なんてどうですか? 在庫もまだありますし、性格も比較的大人しいし、順応能力も高い。寿命はみじかいですが」
 立川の提案に二人は、ハタと気がついた。

「ナイス! 立川さん! さっすがー立川さん!」

「ほうれん草か…果物にばかり気が向いていたよ」
 手を打って喜んだのも束の間。茉利亜が再び考えこんだ。

「どうしよう! 桃型かブルーベリー型だと思ってたから、ラベルのデザイン! ほうれん草型の分考えてなかったわ! 明日あたりに発注しようと思ってたのに!」
 大きな独り言が、男二人の耳にも届いた。

「心配召されるな! 姫! と、立川君なら言ってくれるよ。ねぇ?立川君」
 鳥羽は期待をさせておいて、落とした。更に、同僚に押し付けた。
 その同僚は不適に笑った。