「落ち着いてよおじいちゃん。そんなこと言わないで会社の経営にも軸を置いてよ。貧乏だと構成員の皆を養えなくなるかもしれないんだよ? 皆頑張ってくれてるのに可哀想だよ! それに怪人だけの構成員無しの登場なんて…迫力に欠けるわよ!」

煎餅を両手で持って迫力を語るのはいかがなものかと思われるが、怪人だけの登場では寂しいのは確かだ。それに正義の味方が集団で一体の怪人を叩きのめしているのがバレテしまいイメージが悪くなる。
 それに黙認している警察の立場が危うくなり国家権力が動き出すので始末に終えない。

「しかし、経営に軸を置くと倒す機会が…」

これには日焼けした男が返した。

「そりゃあそうですが、これ以上あいつらを働かせると大変なんですよ。そこんとこは頼みますよ。それに労働基準法なんてのもありますし」

「ぐぅっ」

老人はつまった。

「…そうだな…法は守らなくてはならんな」

悪の組織は「悪」と名乗る以上多くを守らなくてはならないのだ! というのが老人の美学であった。
その老人の美学に男は「ホッ」と一息ついた。
日焼けした体格のいい男は、その風貌から最初に倒される幹部だと思われる。

「じゃあ! 経営にも軸を置いてくれるのね?」

制服姿の孫娘がここぞとばかりに確認してくる。今の内なら乗せられるかもしれないとの考えからだった。

「しっしかしなぁ…茉利亜《まりあ》…」

大人気なく渋る老人仕草だけを見れば若々しくも…無いこともない。
そんなおじいちゃんに孫娘はいきりたった。

「えーーーーい!! 往生際の悪い!!! それでもラスボスなの?!」

その言葉が老人(悪の組織首領)の胸に深く響いた。
  ラスボス(最終ボス→トリを飾る→強そう→カッコイイ)なんていい響きなんだ!

「分かった! そこまで言われてはしかたがない!! 首領たるもの懐も深くなくてはいかんからな!! はっはっはっ!」

内心自画自賛しながら満面の笑みを浮かべる。
 彼が乗せられたと知るのはもう少し後のことだ。