亀村山町の不思議な出来事

「ところで柴さん。すごく今更だけど夜昼くん見たよ」
 今更だった。竜司から茉理亜を隠さなくてはいけなかったし、竜司との話に気を取られていた天は今になって伝えておこうと思っていたのを口にしたのだ。

「本当?!」
 柴は飛び上りそうだった。こんなに朝早くしかも、天から火輪のことが話題に出たことに驚いたからだ。

「俺も見たぞ。そこの廊下で天がコンタクトレンズ渡したらあいつ小躍りしながらどっか行ったぞ」
 なぜ小躍りしながら?! と茉理亜は一瞬考えたが、そんなことは今大事ではない。今火輪がどこにいるのかが重要なのだ。

「どこどこどこっ」
 竜司がちょっと驚いた顔で窓の外を指し示した。

「グラウンドっ?」

 首を横に振る。ではどこに? 今の茉理亜は走り出してしまいそうな勢いがあった。

「いや。さっき叫び声がしたろう。それ」

「そうそう。よくあのカラコン入れて元気に走り去っていったよね」

 楽しそうに笑う天の「あのカラコン」という言葉に茉理亜は引っかかりを覚えた。
 確か昨日、天は生徒会室の前で夜昼のコンタクトを拾った。それを本人に届けるとも言っていた。それから夕方頃にうちのスーパーに来てタバスコを買って帰る本人と話をした。そのポケットにまだコンタクトは入っているとも言っていた。
 明日、渡そうと…。

「編元君。昨日のタバスコどうしたの?」

「うん。面白いよね、タバスコって濾すと色が少し残るけど透明なんだよ。知ってた?」

 竜司が、あぁと納得した。
「……まぁいいわ! 生徒会長走って行ったのね? きっと眼科ね」

 そう言うなり、柴も走っていってしまった。

「生徒会書記も大変だね。会長がいっつもいないから確保に余念がない」

「うちの生徒会長は柴の方が合ってるだろ」

 柴は近くの眼科まで追いかけていくつもりだろうか? まさか、そんな奴じゃないな。今日の生徒会が中止になるか、そんな連絡に走っただけだろう。

「ところで竜司。保健の先生戻すの手伝って」

 振り返ると、部屋続きの扉からいびきをかいている白衣姿を天が引きずっていた。