亀村山町の不思議な出来事

 力説する天は怒ったような調子でまくしたてる。
 実際には怒っていないのだろうが。
「俺だけど」

「ほら、僕が渡す時間なんてない」
 腕を組んで、僕の勝ちだと言わんばかりに天はエバル。

「でも、放課後俺が逃げ回ってても足引っかけたりして無理にでも止めたことあったよな。昨日も廊下で何回かすれ違ったろ、最低4回はすれ違ったぞ」
 俺の記憶力をなめてるな。
 道には迷っても、相手の名前と顔は2回も見聞きすれば覚えるんだ。覚えたが勝ち、今じゃあ全校生徒の半数の所属部とクラスを覚えていると自負するぞ。
 昨日話した相手だってしっかり覚えてる。…友達が少ないからなんだが。

「鞄を持ってなかったんだよ」

「そうだな足元に置いてあったな」

 表情は変えずに、指を悔しそうに鳴らした。

「残念。そんなことまで覚えてなくていいんじゃないかい?」

 今度は俺が腕組みをして勝ち誇った笑みを作る。

「柴、悪いのはやっぱり全部こいつだ」

「というか、田所君がすごいよ記憶力」
 感心半分、呆れ半分といったところか。すごく微妙な顔をしていた。

「本当に仲良いんだね。編元君と田所君」



 その言葉が耳から脳に到達し、脳内で分解して構成して再び分解し構成しなおすのに少しの時間がかかった。

「そうだね。僕が一番竜司と仲が良いから。次は高橋先生あたり」

「…は?」

 聴覚が受付たくないような言葉が連なり、頭の中が次々と白くなっていく。たぶん今頭を開いてみたら白カビが生えたような状況なんじゃないだろうか。
 いや、実際はそうじゃないんだろうけどさ。

「そういえばそうね」
 納得したような笑みを浮かべ、柴はしきりに頷く。
 柴の中で、俺が間違った人物像にされていく。それは止めなくてはいけない。

「それは絶対に違うぞ」
 慌てふためきとはこのことだろう、必死に説明をしようとするがどこをどうしたらよいのやら、頭の中で組み立てても直ぐに崩れてしまい言葉にならない。ただ表情だけが難しくなっていく。