亀村山町の不思議な出来事

 柴が慌てたように布団から飛び降り、天の前に立ち謝ってきた。
「ごめんなさい。これは違うのよ! 私から編元君に頼んだの。編元君は全然悪くないの」

 そう言って少し涙目になって訴えるのだ。
 しかし、頑として俺は譲らない。
「じゃあ何か、柴は天に俺の腹を殴るように指示したり、家に不法侵入したりするのを指示したのか?」

 柴の眼は点になった。そうして言った意味が理解できたのか、振り向き後ろの天を見る。
 やっぱり柴は良い奴だ。絶対天が勝手に行動したんだな9割方。でも、自分が頼んだんだから非難もできずどうしたものか迷っているな。

「そんな事したの? 編元君」

 嘘であってほしい、そう聞こえるような声だ。

 内心穏やかではない柴に対して、天はまた笑う。
 お前の表情の選択肢は笑うしかないのかっ。

「まさか、そんな」

「嘘よね。よかった」

 柴の肩の力が幾分か抜けた時だった。

「何時ものことだよ」
 含み笑いがあった。

 流石の俺も、ここまで天が酷いとは思わなかった。
 俺の嘘だとか妄想だとかではぐらかすかと思ったら、油断させておいて奈落に落とすかこの性悪め。
 何も悪いことを企んだり、実行したわけでもないのに、柴は後ろめたそうに落ち込んだ。可哀想だ。相手が天なだけに更に可哀想だ。言い返したいのに礼儀を知るから言い返せない。
 人選をミスったな、それが最大の汚点だ柴。

「まぁ気にするなよ。そいつの不法侵入も暴力もお前の所為じゃないって」

「……田所君」
 大きな瞳を潤ませて、今にもぼろぼろと大粒の涙がこぼれそうだ。
 なんか、被害者のはずの俺が加害者になった気がする。何故だろう。

 原因は一つしかない。
「悪いの全部、天だし」

 学校で渡せばいいものを、わざわざ家に不法侵入して置いて帰って、何の理由もなく殴ったのはこいつ一人の行動だしな。

「僕を悪者みたいに言うじゃないか。柴さんから渡されたのが昼休みの終わり頃で、次の時間から実験で忙しくて渡せなかったのを放課後に渡そうとしたけど、高橋先生と校内鬼ごっこして逃げ回ってたのはどこの誰だい?」