亀村山町の不思議な出来事

「それより。メカメどうするんだい」

「レモンと一緒に鞄の中にいれておく」

 なぜかレモンを手放さないメカメ。よほど気に入っているのだろう、今もビニール袋の中はレモンが2つ3つ入っているようだ。
 無理に引き離せば、多分昨夜のように暴れる。それは周囲にも自分にも迷惑、できれば避けたい。

「そうじゃなくて、これから」

 そんなことも分からないのかい? さっきの頭突きで馬鹿になったんじゃないのかい。
目は口ほどに物を云う。
 眼鏡越しにでも悪口が伝わってきた。

「うっあっあぁ……それは」

 全く何も考えていなかった。

 そういう言い訳を天は許してくれるとは思えない。…とうか、天に許してもらう必要もない気がするんだが、眼鏡の奥から-193℃程度の視線で蛇に睨まれた蛙状態の俺にはあまり関係はなかった。
 一体どこからこの威圧感は出ているんだ。

「柴さんには戻せないし、僕の家には伏丸(ふせまる)がいるから嫌だよ」

「誰もお前に頼まねぇよ」
 しかし、困った。無理にでも柴に頼み込んで返品するつもりだったのに、天に釘を刺されてしまった。どうしたものか……。この先生に怒られてます小学生状態の俺。

「一体どうするのさ?」

 これまでにない威圧。どうするといったって、選択肢のない俺にはどうすることもできないのだろう。同じ年の奴に威圧されて、これからの学校生活や社会生活どうなる。

 頭を思いっきりかきむしった。
「くっそー。わかったよ俺ン家で飼うよ! このメカメ」
 選択肢が他に探せたとしてもだ、天はそれを全部叩きつぶす気だ。そんな気がする。

 フッと点が笑った。後ろを振り返り、一言。

「柴さん確約取り付けたよ」

「ばっちり聞いた」
 教師が寝ているとばかりに思っていた布団から、ひょっこりと顔を出したのは柴 茉理亜だった。俺にメカメを送りつけた張本人だ。

「んなぁっ! 柴なんでこんなとこ…ということは天~」
 状況がわかってきた。つまり、天は柴の前で俺がメカメを預かると言わせたかったが為にこんなことをしたのだ。

「なんだい? 竜司」

 天はニッコリと笑った。