亀村山町の不思議な出来事

「はい」
 何気なく天がポケットからコンタクトケースを取り出した。

「そっそれは」
 そのわざとらしい動きがどうしても気に食わない。自分に酔いしれているそれが。
 
 しかし、コンタクトケースを受け取る動きはとても自然。余分な動作は無くわざとらしくも無い。演技がかった動作ではない初めての動きだ。

「廊下に落ちてたのを拾っておいたよ。夜昼君の名前が書いてあったから会ったら渡そうと思って」
 にっこりと天使のような笑みを浮かべる悪魔。
 俺にはそう見える。
尻尾と角が生えてそうだ。
 いや、見えない、触れないだけで実際にはあるだろう。

「天君、君って奴はなんていい奴なんだ! アリガトウ!! このお礼はいつか必ず」

 そう言って天からコンタクトケースを受け取ると、礼をしてスキップでその場を去った。

「渡さなきゃいいのにあんな奴に」

 原型もとどめないくらいに粉砕されていれば良かったのに、内心思っていた俺はあまり面白くなかった。

「なんてこと言うのさ竜司」

 天が俺の両肩をおさえて正面から力強く訴える。
 同じような考えだろうと想像していたのでかなり面食らった。

「つけてもらわなきゃ面白くないじゃないかっ」

「…お前そんなに赤のカラコンが好きか」

 夜昼のコンタクトは無意味に赤い。
 本人が赤色が好きらしく、無駄なコンタクトは赤のカラコンを入れるためだけのものだ。目なんて誰も見ないだろうに、今の時代。

「ううん。嫌い」

首を横に振る。

「じゃあなんで…」

 その時、校舎中に響くような悲鳴が聞こえた。
 声の判断が付きにくいほどの叫び声。しかし、こんなに朝早くいる生徒なんて限られる。それに体育館の方向でもない、夜昼が去った方向だ。
 多分、夜昼の悲鳴だ。

にっと天が笑う。

「ほらね」