亀村山町の不思議な出来事

 言っても仕方がない、ここら辺はチョッと変わった地域らしいし。
近所の早川(はやかわ)では毎年死人が出るし。河童を見たって言う奴もいるし。あるはずのない渡し舟を見たっていう話もある。
死んだはずの人間がふらふら出歩くなんてのも聞いたことあるし。
どれもこれも俺は体験したことはないが、よく聞く話だ。

レア物の”伝説のカメロンパン”を買いに行ったときに、高橋と校長を見たんだ。それだけでさっきのことよりスゴイ体験をしたと思ってる。

そんなとこにある学校で、メロンパンに猛ダッシュする教師がいる学校だ。保健で夜を明かした保健医がいてもおかしくない。

  (おかしいので、気付いて欲しい)

朝早くに校舎で音がすると意外と響く。
夜とは別の意味で誰もいない。

静かで良い。
と、おもっていたが。

「げ」

見知った人影を見つけてしまった。しかも、あまり会いたくない。
向こうも気付いた。

「いやぁおはよう。田所竜司」

嫌味ったらしい台詞をよくも朝から吐けるものだ。
肩まで伸びたロン毛を手の甲で流し、俺様カッコイイを自画自賛しているようだ。
今は自己陶酔してナルシス状態。この手の奴は嫌いなんだ。

「おはよう。珍しいな遅刻魔・夜昼火輪」
遅刻魔が朝も早くからいるのも珍しいが、苗字と名前の方が珍しい。
夜昼(よるひる)火輪(かりん)と女の名前に聞こえる偏見かもしれないが。
現在の妙な名前付けブームの先駆けかもの知れない。
その点に関して両親に感謝する、名前負けしてそうだが。

「おはよう。夜昼君」

「天もおはよう」

本人にしたら自己陶酔できるくらいに自分がカッコイイと思い込んでるんだろうが、俺にはどうも嫌味ったらしく聞こえる。
時々つけるポーズがそれに拍車をかける。

「どうしたんだい? こんなに朝早く」

天の質問に、大げさに手の平を額に打ちつけ、困った顔を作る。それが芝居がかっている。そこが余計だっての。

「それがね。どうもコンタクトを落としてしまったんだ! この完璧な僕としたことが!!」
 同じ台詞を天が言ったとしても、これ程殴りたいとは思わないだろう。