亀村山町の不思議な出来事

 俺の言葉をどう受け取ったのかはしらないが、ふよふよと宙を漂いながら飛んでいく。廊下の角の所で曲がると、その小さな体は見えなくなった。

 だが、俺の1.9の視力は誤魔化せない。頭の半分が見えている。目が赤いものだからすぐにわかる。
 それは眼鏡の天にも分ったようで、

「見てるよ」

「見てるな」

「どうするのさ? このまま帰しちゃったら大騒ぎになるかもよ?」

「わかってるけどさ。鞄の中で大人しくしてると思うか? メカメ」

 やってることが、かまってほしいだけの行動というのはようく分かる。しかし、甘やかすと何をしでかすのかわからないから対処の方法も判らないし、だからと言ってそのまま帰すのは天に言われなくともわかっているが…。

「餌でもあげたら大人しくなるよ。ほらメカメ飼育用のが売られてるじゃないか、それをあげたら?」

「高いし。しかも餌は持参らしい」

 聞こえているのかいないのか、いや聞こえている。ぶら下げていたビニール袋から丸い物体を取り出し見せるのだから。

「…なんでレモン?」

 メカメが廊下の角で見せる丸くて黄色いレモンを見て、天はかなりの疑問が浮かんだんだろう。奇妙な顔・其の二をしている。

「昨日ダンボールに入ってた。そのせいで入ったのかもな。それからお気に入りの様子」

 あの小さい口から食べたのだろうか? 歯形ついてないだろうなレモン。

「しょうがない。おい。鞄の中で大人しくしてるならいていいから」

 右手を軽く振ると、レモンをビニール袋にしまい、ふよふよと戻ってきた。

「暴れるな。レモン汁で鞄の中汚すな。わかったか?」

ない首を縦に振る。

「早くも扱いなれてるね」

 天の一言が以外と胸に刺さる。俺は本当にメカメを返品する気があるのだろうか?