亀村山町の不思議な出来事

「それがどうかしたのか?」
 特別欲しいといったものではない、ただ単にあったらいいな。その程度のものだ。
 
「はい」
 部屋の隅に当然のように居座っていた天の大きな鞄から、これまた大きな箱が出てきた。
 教科書類でも入っているのかと思えば、綺麗にラッピングされてシールまで貼られたプレゼント箱だった。

「俺、誕生日じゃないんだけど」
 重たそうに机に置かれた箱をしげしげと見ていると、更に小冊子のようなものを上に置いた。手書きで、[取扱説明書]とだけ書かれただけの表紙が今しがた作られたのを物語るようだ。実際インクが乾いたばかりだと主張して、薄っすら指についた。

「僕からじゃないよ。預かりもの」
 中身が空っぽになった鞄を下げながら、天は面白そうに、箱を俺の方に突く。

「中身なに? 誰から?」
 天からのものではない、じゃあ誰から? 誰が天を経由して俺に、何のためにコレをよこす? なぞ解きは得意じゃないぞ。

 訊いても反応は無い。急かすように箱を押すだけだ。
とても困った状況だ。天からじゃないとすれば、一体誰だ? 心当たりが全くない。
 俺の誕生日でもないし、バレンタインでも、クリスマスでもない。
 まさか、補習を逃げてきたんでその配布物だとか、テキストなんかじゃあるまいな。
 学校が生徒一人相手にそこまでやるはずがない。いや、待てよ。
「まさか高橋からのじゃ」
 笑った顔が歪んだ。まさか、やるかもしれない。毎回俺に逃げ切られているからプライドを捨ててまで送りつけたのか。

 それには首を横に振ることで、天は答えた。
「高橋先生からの方がよかったかい?」
 意地悪そうに聞き返すところが、憎ったらしい。嫌に決まってるだろう。

 高橋からでないとすれば、他に誰がいる? いや、誰にしても恨みを買うことはしていないだろう、多分。
 覚悟をきめてプレゼントの包みを開ける。できるだけ包み紙を破らないようにそっと丁寧に。


 何で俺はプレゼント一つにこれほど用心せにゃならんのだ。

「おぉ! これは」