亀村山町の不思議な出来事

「そんなわけがあるか」
 一瞬納得しかけたが、俺が忘れるはずがない。
よく物を忘れたり失くしたりする性分の俺は、今日こそは鍵を失くしたら大変と、わざわざ鍵を鞄の内ポケットに付いているフックに掛けてまで予防したのだ。忘れようにも、何処にも置いていかないように。
 
 じろりと睨みつけると、残念そうにただ笑う。
ただ笑われるのが恐ろしい。今回にしても、悔しがるにしても笑うし、怒っていても笑う。表情からは、そういった意味でうかがえない奴だ。

「ばれちゃったか~。いけると思ったのにな~」
 一人で呟きながら、背を向けて奥へと下がる。艶の良い髪の毛を触りながら。
靴を脱いで住居不法侵入者の後を追う。
 侵入者があまりにも堂々と行くので、俺のほうが傍から見ると侵入者だ。しかし、ここは俺の家だ。侵入者は天の方だ、と心にする。

「それで?」
 先ほどの答えを再び問うと、世間話のように返された。まるで、「今日の昼は購買のパンにするか、食堂の日替わり定食にするか」に「メロンパンにする」とでも答えるように。
「うん。体育の時間にちょっと借りただけだよ」

「当然のように人の鞄を漁るな!」
 住居不法侵入の常習犯は、窃盗にまで手を染めていた。やりかねんとは思っていたが実際にやられると腹が立ってしかたがない。
 しかも、犯人は悪いと思っている節が見受けられない。
「ちょっとだけだよ。それに家を開けるのに使ってないし」

 こうだ。
 うん? ちょっと待て、
「じゃあどうやってここを開けた?」
 冷汗が首筋を伝った気がした。嫌な予感がする、とてつもなく嫌な予感が。

「これ」
 取り出したそれがきらりと光った。
 
プルタブ? 栓抜き? アルミ箔? ヘアピン?
 いや、
「合鍵作りやがったな!!」