-2007年 春-
冬の凍えるような冷たさを人知れず新しい季節が吹き飛ばし、太陽の光と、生まれ変わった緑が辺りを暖めだしていた。
「ちょっと田中さん。照明もうちょっと寄ってもらえる?
スケジュール立て込んでるんだから、みんなもっと手動かしていこうよっ。
あと佐藤さんっ、このシーンのセリフのことでちょっと話したいことがあるんだけど・・・・・」
某大学のキャンパス。
そこに、周りの人間に愚痴を吐かれながらも、堂々とした態度で指示をだす達也の姿があった。 彼は今、大学の同級生達と共に例の春休みを利用しての映画製作に取り組んでいた。
タイトルは「未来」。
初恋の女性、未来にとって友人でも恋人でもなかった達也から 言葉をかわすことも、抱きしめることもできなかった「幸田 未来」へと贈る、追悼の意を込めた映画。
そして、いつも勇気を出すことから逃げ続け傷つくことから逃げ続け傷ついた、
「貸借 達也」への追悼の意を込めた映画。
達也は躊躇しなかった。
桜が咲いている。
青く澄んでいて、吸い込まれそうな空が広がっている。
あたたかい太陽と戯れる緑が微笑んでいる。
そして、風がささやいている。
「春が来た」と。
偶然か、それとも必然か・・・
自分では無意識のうちに通り過ぎた、人や物との小さな出会いがその人の人生を大きく左右することがある。
「Call Your Name」を見たことで、心の中にある絶望に拍車がかかり、自ら死を選んだ
「幸田 未来」。
「Call Your Name」を見たことで、自分の弱い人格を乗り越え強く生きることを選び、生まれ変わった「貸借 達也」。
これはある一本のレンタルビデオに運命を大きく動かされる二人の若者の物語・・・・・
The end
