そんな達也にも、彼女に自分を認知してもらうための、あるささやかな作戦があっ
た。それはいつも同じ映画を借り続けて、彼女に「あっいつも~の映画借りていく人
だ!!」と、思わせるわけだ。超のつく小心物の発想である。

しばらくして、達也はレンタルビデオ屋についた。
店に入り、すぐさまレジに目をやるといつものように長袖の制服を着た幸田さんがい
た。達也は返却するビデオを彼女に受け取ってもらうため客の列が掃けるのをわざわ
ざ待ち、そして彼女のいるレジに向かった。

「いらっしゃいませ。」
彼女がそう一言発するだけで達也の鼓動は早まり、わきにジットリと汗をかくほど緊
張した。

今日こそ行くぞ・・・よし。行け。行け!!行くんだ達也!!

「どっ、どどっ・・・いちゅ、いっ・・・いつも・・・・・・」

達也が全身から勇気を振り絞り、幸田さんにはなしかけようとバカ丸出しでドモって
いると、次の瞬間、達也にとって信じられない奇跡のような出来事が起こった。


「ギリギリセーフですよ。この映画ホントに好きなんですね。
 貸借さん。」

その瞬間、達也の中に流れる時間が止まった。