幸田さんの父親はしばらくの間黙り込んでしまったが、なにかを振り切るかのように、懸命に話し始めた。


「実は3年前、妻が死んだ時、1度あの娘は自殺未遂をしたことがあった。母親の死を受け入れられず、心のバランスを崩してしまったんだろう。

その時は早い段階で近所の方が発見してくださったから、命を落とすことにはならなかったんだが・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

そんな、手ばなしにしても安心できるような娘ではなかったから、娘が東京の大学に一人暮らしをしながら通うなんて言い出した時は大反対したんだが、あの娘は1度決めたら自分の意志を貫き通す頑固な所もあったから、私の反対を振り切って家を飛び出していってしまったんだよ。」


こんな時になって初めて、「幸田さん」という一人の人間の人格が達也の中で姿を現しつつあった。いつも「長袖」の制服を着ていた、大好きな幸田さんの。


今まで達也にとって彼女は、近所のレンタルビデオ屋でアルバイトをする笑顔の素敵な憧れの女性でしかなかったのだから。

達也はそれがくやしかった。