「きっと子供の頃からイヤなことや、つらいこともたくさんあったのだろうけど、それを私や妻に八つ当たりして気を紛らわしたり、愚痴にしてこぼすようなことは一度もなかった。そんな強い面もある娘だったんだよ。」


達也は黙ったまま話を聞き続けた。


彼女はあまり体が丈夫でなかったこと。

ずっとビリだった運動会のかけっこのこと。中学の合唱コンクールで指揮者をつとめたこと。
思春期に入り、コミュニケーションが上手くとれなくなったこと。高校の卒業式の日のこと。

そして、幸田さんの母親は病気で3年前に亡くなっていること・・・・・


達也は誠意を持って彼女の事を話してくれる幸田さんの父親に対し、自分が嘘をついていることにどうしようもない申し訳なさを感じ、ついに口を開いた。

達也は自分が幸田さんの友達でない事を正直に話した。

そして、彼女に密かに恋をしていたこと、勇気が出せず彼女に一言も話しかけられなかったことも、正直に全て打ち明けた。

幸田さんの父親は最初すこし驚いた様子だったが、小さく微笑み、「ありがとう。」と言って、優しく受け入れてくれた。

そしてまた幸田さんの事を話し始めた。

「すごく話しにくいことなんだが・・・・・・・・・。」