「…だから、やめるなんて言わないで」


気づいたら、自分の目に涙がいっぱい溜まっていた。

全くんは気づいたようだった。





でも、私は顔を見せないようにして立ち上がり、自分の胸まであるコンクリートの壁から海を眺めた。

変に思われるだろうと思ったから。




「本当、不思議な奴」


すぐそばから全くんの声。

振り返ると、全くんも私の隣に立っていた。

後ろ向きで壁にもたれ、ひじをかけてこっちを見ている。




「事故のとき、俺のことかばってくれた人も、こんな感じの人だった気がする」


「…海外って言ってたよね。外人?相当ジェントルマンだったんだね!」


涙を拭き、わざと元気よく聞く。



「若い女の人。俺の初恋の相手」



・・・・・・・・・・・


――…え?