「高遠、お前まだ帰ってなかったのか」


「わー渡センセ、すんません。今帰るんで、な、ツバサ…」


「ツバサぁ?」



ワタリという教師は、全くんをじっと見ると、


「寝不足してるんじゃないのか。ゆっくり休みなさい」


とだけ言って、
天体望遠鏡を大事そうに持って去っていった。







――…逃げちゃった。
全くん、ごめん。


中庭から、見えないように校舎の壁つたいに走り、
土手を降りて校庭の隅に座り込んだ。


…びっくりした。

全くん以外の人間と接触するなんて、考えてもいなかった。


心臓がまだばくばくしている。

何でだろう。
人の眼が怖い…



全くんは、何度か私の名前を呼び、探していたようだったけど、
しばらくして居なくなってしまった。