「いや、渡先生はご存じかもしれませんが、この病院のすぐそばに特別支援学校があってですね」
「はい、来る途中にいつも見かけます」
「そちらに…高遠くんを転入させてはどうでしょうかと思っているんです」
高遠を転校させる?
予測していなかった言葉に俺が反応できずにいると、医師は続けた。
「彼の体調次第ですがね。もし、このまま容体が回復するのであれば、せっかく若いですからね…
学校に行かせてあげたい。しかしいつ、何が起こるかわからない。それが、あの病気の恐ろしいところなんですよ」
俺は黙って医者の話を聞いた。
「特別支援学校は、高遠くんのような子供ばかりが通っています。腎不全だったり、白血病だったり、がんだったり。
そういう環境の方が、高遠くんにとって良い刺激になるのではないでしょうか」
「・・・・・・・・・・」
「もし学校内で容体が急変することがあっても、万一に備え、病院へ運ぶ体制は整っていますしね」
医者はそれだけ話すと、視線を落とした。
「まぁ、渡先生は親御さんでも親戚でもないわけですから…こんな事言われても、困ってしまいますよね」

