飲みながら、先生は車のエンジンをかける。


「高遠のところに行くか?」


車の時計を見ると、もう深夜2時近い。

きっと全くんは眠っているだろう。
朝になれば、私も消えてしまうし…

私は首を横に振る。


「じゃあ、今日は特別コースだ」



車は二人を乗せて、深夜の街を出発した。




…先生、
家どこ?って訊かないんだね。

私に帰る場所が無いってこと、勘付いたんだね。

何も訊いてこない。それが先生の優しさ。



…ありがとう、先生。



ぬるいオレンジジュースの酸味が、喉の奥でとろけて消えていく。


車は、夜の高速道路を疾走した。


「高速道路のコウソクって漢字、高遠に似てるよな」


なんて、冗談を言って笑い合いながら。