しかしこの病院から繁華街にある店まで、走っていくのは無謀すぎる。

…でも、行かなくちゃ。


病院を出た時、見覚えのある車が目の前で止まった。


「…あれ、君、高遠といつも一緒に居る…」



渡先生だった。
助かった。
凄い偶然だ。


「先生!!私急いでるんです。お願いします、乗せて貰えませんか」


車に近寄るなり頭を下げる。

事情はどうしても言いにくくて、行き先の住所だけを伝えた。
カードをコソコソ見ながら。


そんな私に、先生は何も訊かず手を差し伸べてくれた。




静かな夏の月夜の中、私を乗せた車は走る。



空には夏の星座が瞬いているはずなのに、今夜は気にも留められなかった。



星の存在も気にならないくらい、


私の中で、全くんの存在が、こんなに大きくなっていたなんて…。