「あなたは買わないの?」


「え?」



さっきの優しそうな女の人が

食パンを指差して言った。


「あっやだわ。

買うのを強制してるわけじゃないのよ?」



なんとなく君島さんを連想させる

笑い方。


君島さんより遥かに上品だから

マダム君島といったところだ。



「分かってますよ。」


「良かった。」



結局その大人気の食パンと、

メロンパンを買って店を出た。



すぐ脇の公園に、

さっき買いに来ていた中学生達が

食パンを食べながら

カードゲームを取り囲んでいた。





おやつなのかな・・・?


にしても、おやつが食パンって。



「ブルームの食パン喰わねぇと

やっぱだめだな。」


「お!俺の最強!」


「っちーまたお前かよ。」




ブルームって・・・・

パン屋さんの名前かな。



日が傾き始めて、

カードゲームに夢中になる少年達の

影が伸びていた。





寮に着くと、すでに愛未が

夕飯の準備にとりかかっていた。


私も慌てて、手伝おうと狭いキッチンに

エプロンを片手に向かうと、

愛未は寂しそうに鼻を鳴らした。



「急だよね。」



真っ直ぐコンロを見る愛未の顔は

私のいる角度からじゃ見えない。


けど、すごく寂しいんだよね。


分かるよ。




私も、すごく寂しい・・・・・



「うん。」


「明後日なんて、

いくらなんでも急だよ。」



いつの間にこんなにも

深い仲になっていたんだろう。



合コン疲れが響いたあの朝、

怖い教授を恐れて掲示板を無視した。


たまたまレポ提出がその日だった

君島さんが私に話しかけた。



たったそれだけ。


それから君島さんは、

愛未にも、陽菜にも、

もちろん私にとっても

大事な、失いたくない存在になってた。




君島さんは、やっぱりすごいよ。