私が君島さんに持った印象から

華やかさを引いた感じの店。



君島さんは、

出発前日の明日の朝に

私の住む寮に来ると言って

去って行った。




黒いサラサラの長い髪と、

白いスカートを風になびかせて。








その日の午後の講義は

予定されていなかったから、

愛未を待つ時間、適当に過ごす事にした。




部屋に戻っても、

何もする事はない。


レポもやる気しないし。




ぼーっと天井を見ると、あの染み。


思い立った私は、

君島さんのバイト先のパン屋に

一般客として行ってみる事にした。




カランカラン・・・・


渇いた音。



店の外装は、一言でいうと

かわいらしい。



「いらっしゃい。」


狭い店内に所狭しと飾られた

観葉植物と、

その店内の中心の

木製の丸テーブルの上に

並べられた美味しそうなパン。


オレンジ色の優しい照明に照らされて、

いい香を放っている。



と、小さなレジの横から

焼きたての食パンが出て来た。



「焼きたては美味しいわよ。」


優しそうな女の人が

微笑んで言った。


私がペコリと軽く頭を下げた時、

カランカランと音がした。



「佐木さん来たぞ!」

と、ドヤドヤとつなぎを着た

不精ヒゲのおじさんを始めとする

働く男達が狭い店内に押し寄せた。


「ここの食パンは世界一うめぇ!」


なんて言って嵐のように去って行った。


また店内には穏やかな空気が流れる。

かと思ったら、

次はお子様連れのお母さん達が

やって来て、

次は財布を握りしめた中学生や、

お年寄り、

実に色々な人が短時間に

食パンを求めてやって来た。



その間ずっと店の端っこで

様子を見ていた私の前に、

山のように積まれていた食パンは

とうとうあと一つになった。