「行ってきます。」


今日は農学部全講義が休講の日。

愛未は、もちろんグースカと寝ている。



私は声を潜めてそう言い残すと、

玄関のドアを静かに閉めた。


「美桜ちゃん、行こっか。」

「うん。」


君島さんは、白が似合う。

今日も、ふわふわっとした

白いワンピースを着てる。



「今からどこに行くか分かる?」


まるで謎当てクイズを出す小学生

みたいにそう言った君島さんは

楽しそうに笑った。



「ブルーム?」


「知ってるの!?」


君島さんは巻いた髪を

潰すように頬に押し付けた。



「君島さんに内緒で

昨日行って来たの。」


今度は私が悪戯っ子になる番。

へへへっと笑っていると、

君島さんもふふふっと笑った。



「ブルームの食パン食べた?」


「買った事は買ったけど・・・

まだ食べてない。」


「買ったって事は3時くらいに

行ったんだね。」



ブルームは大学の寮から

南へ徒歩15分の位置にある。



「そう!ちょうど3時だよ!」


君島さんは、えくぼを窪ませた。


「あそこの食パンは3時しか

出ないの。

すごい人だったんじゃない?」



あの日、あの狭い店内に

溢れんばかりの客が

食パン求めてやって来た。



「いつもああなの?」


君島さんは眉を下げて、

またえくぼを窪ませた。



少しすると、あの小さな木造の店が

見えてきた。


窓辺に飾られたパンジーが

朝日を浴びて色が映えてすごく綺麗。



「裏口に回ろうか。」

君島さんはブルームを通り過ぎた。


通り過ぎる時、ブルームを見ると

隣民家との隙間は15センチものさし

程度しかなかった。



少しした所にある曲がり道を

左折して、店の裏側辺りに来た。



「え、ここ入るの?」


「一応道だよ。地図には無いけど。」



目の前には、民家の塀と塀に囲まれた

細い道があった。