「!!」
「退院
おめでとう 乙羽」
息を切らせ
小さな花束を
差し出す柊音
「...シ、..シオン」
信じられない光景に
乙羽が固まっていると
柊音の背後を一組のカップルが
ヒソヒソと柊音に
気が付いたかのように
通り抜けて行く
「と、とにかく中に...」
乙羽が部屋の中に柊音を
引き入れようと手を伸ばす
すると柊音は
人目を気にする事もなく
乙羽の腕を引き寄せ
抱きしめる
ずっと...
ずっと...
求めていた温もりに触れ
力が抜けて行く乙羽
すると
まだエレベーターホールにいた
カップルの男性が携帯を取り出し
こちらに向ける
ゥソ、どうしよう...
このまま不自然に
柊音を部屋の中に引き込めば
写真には写らないけど
背格好や髪型などから
やはりあれは柊音だったと
確信させてしまう
ここは...
曖昧の方がイイかもしれない
とっさにそう思った乙羽は
男が向けた携帯の方に
柊音の背中を向けさせ
髪型も髪の色も分からぬよう
自分の手で覆い隠すよう
抱きしめる
「乙羽...」
「お願い...
動かないで...」
乙羽が小さな声で囁くと
背後で「カシャ」と
携帯のシャッター音が鳴り響く
『行こ!行こ!』
カメラに柊音の姿を納めたと
思ったカップルは逃げるように
エレベーターに乗り去って行った
大丈夫かなぁ...
心配そうに
エレベーターホールを見つめる乙羽
「乙羽...」
「ハッ!
と、とにかく、 中に...」
乙羽は柊音を
部屋の中へと引き込む
ガチャン
柊音の背後で
閉まるドア
「何で...?」
「だって、あの人たちが
戻って..来る..かも..」
「何で...
さっき電話に
出なかったの?」
乙羽の肩に顔を
うずめる柊音
...ドキン
...ドキン
...ドキン
こんな距離であたしは...
柊音を...
ぅぅん
自分をうまく...
誤魔化せるだろうか...
「..ゴメ..ン..ナサイ...」
離れようとする乙羽を
強く抱きしめ離さない柊音
「言ってみろよ...
ちゃんとした...
理由があるのなら...
今、この距離で
言い訳してみろよ」
自分の胸にピッタリと
乙羽を強く抱きしめる柊音
「...//」
「俺が...
見舞いに
行けなかったから
拗ねてるだけ...
なんだろ...?」
「...」
乙羽は下をうつむく
「...相変わらず
細っせぇ..体...
ちゃんと食べてる?」
「た、食べてるよ//」
「本当は、俺...
もっと、もっと...
強く抱きしめたいのに...
簡単に壊れちまいそうで
力の加減がもどかしい...
でも、もし...
もし、このまま...
俺の元から
消えるつもりなら...
いっそ...
壊しちまった方が...
楽になるのかも知れない」
細やかなガラス細工のように
繊細な乙羽の身体は
柊音が少しでも本気で
力を加えれば簡単に
壊れてしまいそうなほど
繊細で...
その力加減が
もどかしい...

