「………はっ!」
やっと我に返ったさちは、来た道を戻ろうと振り返った。
その時だった。



「ぬぅおおおっ!」
崖、その言葉がピッタリな、見事な崖があった。彼女の足で削られた表面の石ころは完全に見えなくなるまで落ちたが、まだ底に当たる音は返ってこない。さちはそんな崖の端にギリギリで立っていたのだ。

「……な、なんで?」
そう言いながら、安全な方へ、つまりは店の方へ、後ろ向きにあるく彼女、目線はまだ崖を見ていたが、頭の中はパニック状態だ。考えようとしても、頭の中には、?マークがぐるぐる回っている。

「いらっしゃいませ。」


「……ヒャアッ!」

急にかけられた声に、体をビクッと震わせ、また、変な叫びをあげる彼女。

どうやら、気づかぬうちに店に入ってしまったようだ。
頭の中の?は、一瞬で消しとんで、さちは固まっていた。
そんな客を見た店員は、まるで、こんなことには慣れていますよ、というような感じで、落ち着いて、続けた。

「どんなヒトをお探しですか?」