「あのね、タケシ…?」
「ん?」
「私が人を買った理由は……結婚なの。」
そう言って、さちは話し始めた。

タケシを買う前の日、つまり母親から電話があった日。
さちの母、文恵が、娘に電話した理由は…見合いだった。


「あんたもいい歳なんだから、悪くない話でしょ?」


そう電話越しに話す自分の母親に対して、さちは短く、


「ありがた迷惑。」

とだけ答えたが、母親もなかなか引き下がらなかった。何度かやりとりをしている内に、母親は


「それなら、あんた、今好きな人とか恋人とかはいるの?」

と、少し苛立ちながら聞いた。


「ーっ……」


恋人はいたのだ。ついさっきまで………さちが一瞬言葉に詰まると、母親はこれを好機とばかりに、勢い良く話した。


「ほらみなさい、そういう人がいないんだったら、お見合いの一つや二つしたっていいでしょう?」

確かに、そうなんだけど……でもなぁ…
さちは、お見合いというものをなぜか好きになれなかった。

結婚することは小さい頃からの夢だったし、子供のいる生活というのも憧れていた。
しかし、親にレールを引かれ、結婚相手という列車に乗って、結婚という駅まで走ったとして……さち自身が満足出来るのか、疑問だった。