こうしてばあちゃんと二人で花見の散歩に出掛けようと計画したのは去年の今頃だった。

 その頃の僕は、勤め先を辞めてから2週間くらい経っていて、ふらふらと仕事も探さずに堕落気た生活をしていた。

 どんな仕事をしても何か足りないし、続かない。問題は自分の内側にあって、ずっとそのことを考えていた。

 花見をする気にもならず、満開だった川の桜は丘の上にある部屋のベランダから眺めているうちに、嵐と雨の日がきて散ってしまった。


 楽しいはずの季節を沈んだ気持ちで迎えている自分が嫌で、散り終えて寂し気にぽつぽつと紅色の名残をつけた桜の木が、ますます自分を惨めにさせて。

 去年の春はそんな気分だった。


 その次の日くらいだったろうか。何日か続いた嵐の合間の晴れた日に、たまたま僕は川の並木道を通った。


 桜の花は、ぼそぼそとした紅色の点に変わり、川のほうに枝を伸ばした黒い樹肌だけが目立っていた。

 でも歩道に架かる桜の木のアーチは、僕に満開に咲く川沿いの並木道の姿を想像させた。


 「こんなに素敵な場所だったのか…」

 しみじみ思った。


 来年の春にはここで花見をしようと、そのとき決めた。

 そして来年の春には、もっと気持ちのいい生き方をしていよう、ということも。

 人が喜ぶような、自分も嬉しいような…。

 *

 「すこしこわいじゃ」いって、ばあちゃんは手すりに寄りかかった。

 「ちょっと休もうか」と、ばあちゃんの腰のあたりをさすっていたら、突然ばあちゃんがよろけて尻もちをついた。

 「いたたた…」ばあちゃんは力の抜けたようにへたり込んでしまった。

 しばらく立ち上がれそうにはなかった。


 日が少し陰り、風も少し強くふいた。