小さな川に沿ってつくられた並木道には、満開の桜が道の先までどこまでも続いていた。

 春の少し強い風に、薄い桃色の花びらがちらちらと舞っている。

 桜の木は遮るもののない、陽の良くあたる川のほうへ枝を伸ばして、人の通る歩道の上にアーチのトンネルをつくっていた。


 この近所の小さな川を、今ばあちゃんと一緒に歩いている。



 僕の住んでいるところから少し離れたところで、ばあちゃんは独りで住んでいた。

 車で家まで迎えに行くと、おめかししている途中で。そんな姿がちょっと嬉しかったりした。

 天気にも恵まれて、気持ちのよい青空の下、川の近くの駐車場からここまで歩いてきた。

 もう80を過ぎたばあちゃんは、足も腰も具合がよくなくて、100メートルばかり駐車場から歩いただけでも大儀な様子だった。

 それでも川沿いにずらりと並ぶ桜の桃色が見えると「やぁ…すごいってばねえ」と軽く腰を伸ばして、春の景色にみとれていた。


 「そうでしょう!」僕はそういって、桜と同じ色をしたばあちゃんの微笑む顔を見ながら、やっぱり来てよかったと胸のなかで思った。