婆ちゃんの恋物語

私らとは、ちょっと違うと思てたからね。大きな屋敷に住んで、奉公人の人が、何人もいたし、
町の人は、皆、地主さんの家族の顔は、知ってたやろね。
町の世話役やら、色々政り事にも、顔を利かせてたみたいで、今で言うと、ちょっとした有名人家族やったからね。
それに、私は、この二人の兄弟と尋常小学校一緒やったんやから。

「源氏物語に落書きをしたのは、私です。」

背の高い、でも線の細いお公家さんみたいな、綺麗な顔。ほんま、まじまじ見たのは、初めてやったわ。
源氏物語?落書き?
思い出した瞬間に、顔が、茹でタコになってたわ。私は、声も出なくて、黙ってたらね。

「お兄ちゃん、後、10日したら、入隊前に、入隊検査に行くんで、その前に、話しておきたいと言うんで、ほら、兄ちゃん。」

昭雄さんって、背は、普通。ガッチリで昭一郎さんとは、正反対。
お公家さんと言うより、お武家さんって感じやったね。

「落書きは、私の気持ちです。
返事を書いて頂いて嬉しかったです。ありがとう。
私は、お国の為に、春に入隊いたします。
入隊してしまうと、貴女を遠くから、見ることも出来ません。
帰還した時、私と結婚を前提に付き合って欲しいんです。
私は、それを糧に戦ってきます。」