婆ちゃんの恋物語

うちは、懐中時計を握り締めて、靖ちゃんは、腕時計を握り締めて、トラックを見送ってん。
誠さん達は、天王寺の病院行った後、天王寺公園内の美術館に置かれた司令部に行くと言うてた。離れて行くんが、不安やったけど、懐中時計ならぬ、身代わり時計を借りたやんって、自分に言い聞かせてたわ、

通りを曲がって、家の前の家が無かった、屋根だけが道にずり落ちて、うちの家、傾いてるけど、硝子も破れてたけど、あったん、

「お母ちゃん、お婆ちゃん、爺ちゃん、」

「おばちゃん。婆ちゃん爺ちゃん。」

玄関先から、二人で叫んで入っていたん。

「麻子、靖ちゃん、どうもなかったんか。よかったあ。」

「お婆ちゃん、手と足どしたん。」

「ガラスが割れて降って来たんや。」

お婆ちゃんが、白い包帯が、モンペの裾の足首と袖の先から見てる。痛いのか、引きつってた。

「お婆ちゃん、お母ちゃんと爺ちゃんは、?」

「二人共、病院や、お母さんは、婦人会で千人針を縫いに行ってた先で、地震に会うて、火傷して、爺ちゃんは、屋根の修理してて、運悪う頭打って、意識ないねん。隣のおっちゃんが、リヤカーで、爺ちゃんを運んでくれたんや。」

婆ちゃんは、うちらの顔見て、気が抜けたんやろか、へたり込んでもて、何時も、気丈な婆ちゃんが、ポロポロ涙流してた。
なんや、婆ちゃんが小さく頼りなく見えてもてん。


「病室がいっぱいで、廊下の端っこも、床も、見てのとおりや。」

お婆ちゃんに連れられて、病院に来たけど、足の踏める場所が無い程、人が、ざわめいて、至る所に座り込んだり、寝かされてた。