婆ちゃんの恋物語

誠さんが、巧君の頭をぐしゃぐしゃと撫でて、笑ってる。
靖ちゃんは、まだ、氷砂糖口に入れんと、ぼーっと二人を見てた。
口の中、何ヶ月ぶりに口にした。甘い食感が、
酔いを忘れさせてくれた。

「巧、お前、麻ちゃんちゃうやろ、僕が麻ちゃんやで。」

「兄ちゃん、何のこちゃ、いらん話は、また後でやで、ほら、淀川や。」
橋が、歪んで見えた。空襲の爆撃後と、また違った。恐怖感が湧いたわ。
市内は、静かやった。
黙々と、全壊した家を修理を始めてる人、家の下敷きになった人の名前呼びながら、家族で捜索してる人達、リヤカーに、家財道具を載せ、足早に行き交う人の波、
思ったより、静かに、
流れて行ってたわ。


「この辺で、止めて下さい。」

近所の街並みが見えたから、慌てて荷台から、身を乗り出してた。
ガンガン、運転席の天井を、誠さんが叩いた。
止まれの合図なんやなあ。

「この時計持って行き、で、3時になったら、もう一回、此処に集合や、まず、家族の安否を確認して来る事。」

「はい、」

「あの、これ、つこて。」

うちに、誠さんが、懐中時計渡したんを見て、
巧君が、ポケットから、バンドが千切れかけた腕時計を靖ちゃんの手に渡してん。

「僕ら、もう一つあるから、持ってて。」

誠さんが、胸ポケットから、古そうな懐中時計出して、うちらに見せてん。

「3時やで、おばちゃんを病院に送って、司令部によって戻るから、気をつけてな。」

「はい、わかりました。」