婆ちゃんの恋物語

「わーっなんか、文学的やなあ。さすが、きみちゃん、」

千代ちゃんは、べた誉めしてくれたけど、これ見つかったら、憲兵に突き出されるんちがうやろか。
怖いもの知らずやったんやね。書いて、また置いて帰ったんよ。

1945年(昭和20年)お正月が過ぎた寒い頃、そんな出来事があって、弟の疎開の話やら、千代ちゃんのお母さんが、入院したりで、図書館に行くのが、2月の終わり、ひと月程、時が過ぎてしまったんよ。

あの、千代紙の事も、何となく夢の中の話のような、感覚になっていたみたいで、久しぶりに千代ちゃんが、本を持ってきて始めて思い出す程やった。千代ちゃんは、気になってたみたいやね。

「来ぬ人を、まつほの浦の、夕なぎに、焼くや藻塩の、身もこがれつつ。」

ひと月前の、千代紙の返信を、読みながら、千代ちゃんは、ポーッとしながら、

「来ない人を待ちわびて藻塩を焼くように、恋こがれつつ、切ない日々って、浪漫よね。」

千代ちゃんの、のんきなのには、呆れてしまう、後、数日で、女学校の面接と試験だと言うのに、そんな事を思いながら、私も、少し気になって、辺りを見回していた。