婆ちゃんの恋物語

フッと、昭と印していたのが、気になっていたのは、私自身、知らず知らずに、恋に恋をし始めていたのかもしれへんわ。

昭と言う字を使う、みじかな、人達を思い浮かべてみたけれど、女性に該当する人が思い浮かばず、女性の書体と決めつけていたけど、男性の可能性を考えて、三人を思い出してみてん。

昭雄さんと昭一郎さんと昭如さんの三人。昭如さんは、ついこないだ、海軍に入隊しはったし、
今は、この街に居ないから、該当には、外れるとして、残り、二人。地主さんの息子二人、
でも、知らない人も、たくさん来てるから、二人とは、限らない。
でも、好きですと言う、文字を見て、多分千代ちゃんも、私と一緒で、ドキドキしてたと思う。
源氏物語を読んで、ドキドキするより、はるかに、心拍数が多い気がしたんよ。

数日後、千代ちゃんとまた、待ち合わせをして、図書館に来た。

「あの本、持ってくるわな。」

千代ちゃんも、気になっていたのか、源氏物語の本を、入館早々、席にも着かず取りに行った。
閲覧室の席について、千代ちゃんを待ちながら、辺りを見回して見たけれど、人の姿も少なくて、それらしい人は、見つけらへんかった。


「きみちゃん、見て見て。」

「どないしたん?。」

「ほら、千代紙に。」

「忍ぶれど、色に出でにけり、わが恋は、物や思ふと、人の問ふまで。」
あの女性的な字体で、平兼盛の和歌、百人一首で読み慣れた、文章が。目に飛び込んで来た。


「これ、どういう意味なん?。」

「訳は、隠しているけど、顔が、ゆるんで、人に、恋をしてるだろうと、ばれてしまって、その事を聞かれてしまうって、感じやったと思うわ。」
「女の人やろか?」


「でも、この和歌の作者は、男性やで。どちらにしても、風流やね。」

「昭、ほら、また、印しがあるわ。」