婆ちゃんの恋物語

千代ちゃんは、とうとう戻って来うへんかった。
代わりに、昭雄さんと足の骨、腰の骨、背骨に、胸骨、喉仏、頭蓋骨の順番に
おかあさんが、持って来てくれた、茶筒に、順番に廻って来た。
焦げた菜箸で、お骨を入れていってあげたんよ。
交代しながら、昭雄さんと入れた茶筒の蓋が、締まりにくいぐらい詰めた千代ちゃんのお母さんの骨。
真っ白で、雪みたいやった。サラサラと、骨粉が、風に舞うたんやもん。

「早よ、持って行ってあげな、待ってはるやろ。」
えらい時間が、過ぎたんやろなあ。
昼は、とうに過ぎてしもてたんやわ。
昭雄さん、声をかけて、歩き始めてたわ。
今みたいに、真横で並んで歩く事も、出来ひんかったし、
後ろをついて歩くのが、やっと。
「キミさん、おかあさんに、此処に居るって聞いて来てん。
なんか、話す暇と、人目が、有ったから、それに、荼毘中やったし、話出来ひんかったなぁ。
お骨を渡したら、少し話せるかな。」

「はい、お母さんが千代ちゃんを見てくれてはるから、大丈夫やと思います。」

前と後ろ、人目の無い場所で、やっと、会話が出来たんやわ。

暗い廊下、教室から溢れ出した、怪我人や避難民を、避けながら、お母さんと千代ちゃんの所へ向かったんよ。

「終わりましたんやな。」