婆ちゃんの恋物語

初老の男性が、ランプの傘をメガホン代わりに、声を張り上げながら、
松葉杖つきながら、コツコツ通り過ぎて行きはった。
早よ、運ばなと気ばかり急いてたら
急に、板が、持ち上がって、動き出したんよ
千代ちゃんが、やっと、持ち上げたんやと思って、前を見たら、見たことある男子の後ろ姿が、お母さんの横で、持ち上げて、担架の要領で運び始め、私の隣に、知らないおばさんが、黙って一緒に運んでくれた。
昭雄さんや、後ろ姿見ながら、不謹慎にも、嬉しい言うんか、ホッとする言うんか、顔が赤くなりそうやった。


校庭に組まれた廃材の上に、すでに、何体かの遺体が、雨戸板や、縁側の板や、それぞれに載せられていた。
千代ちゃんは、ふらふら、私らの後ろを歩いて来てた。
精気が、抜けてしまった体をどうにか、動かしてきてついて来てる。
千代ちゃんのお母さんの載った雨戸が、廃材を組んだ周りに陣取った人達によって、一番端に積まれた。

廃材の組まれた真ん中から、火が、噴いた。
それを見た、千代ちゃんが、

「嫌ー!お母さん寝てるだけやん。下ろして。」

猛火の中に、お不動さんが、立ってるみたいに見えたんよ。
遺体が、ゴロンと動いたり
火は、自然の力、恐いと思いましたわ。
煙が、人型みたいに、空に登っていった気がしたんやわ。
今は、斎場がありますさかいなあ。
まともに、人が焼けて行く姿なんか見ることなくなりましたけど
たまに、骨拾いの時に、真っ直ぐ寝てたひとが、横向いてはったり、足曲げてはったりしますんや。