婆ちゃんの恋物語

お母さんは、千代ちゃんのお母さんの手に、何時も。毎朝、仏壇の前に座り、
お婆ちゃんと二人、般若心経を読経する時に、手につけてはる、
瑪瑙の数珠を、千代ちゃんのお母さんの手に巻いて、手を組めるように、指を曲げながら、
ポタポタ涙を落としはった。

親同士、なんやかんや、相談したり、お茶飲みに行ったり来たり。
私が、千代ちゃんとこ行くって言うたら
決まって、お茶菓子持たしてくれた。
お母さんにとって、千代ちゃんのお母さんは、
私と千代ちゃんみたいなもんやったんやろなあ。
そんな事思いながら、千代ちゃんを見ててん。
こないだまで、恋に憧れ、一緒に本を読んで、
昭一郎さんの事で、なんや、疎遠になりかけたり、色々、小さい時から、楽しい事、辛い事、喧嘩した事。
頭に、浮かんで来ててん。

「朝礼済みましたよ、
此処で何してるんですか?
持ち場に行きなさい。」
看護婦だと言う、指導員が、私を見るなり、
金切り声で、まくしたててきてん。

「すいません、身内が亡くなりましてん。
荼毘にふして、骨拾いまで、
今日は堪忍して下さい。」

お母さんが、嘘つきはった。
知り合いやけど、身内やない。

「わかりました。本日は、事情により、遺体の処理を任じます。
ご愁傷様です。
荼毘は、三体以上一緒になると思います。
廃材が、組まれしだい、校庭にお願いします。三人で運べますね。」

事務的な言葉の中に、優しさを感じたん。