婆ちゃんの恋物語

玄関先まで、昭雄さんは、黙って見送りについてきてくれてはった。

「また、会ってくれますか。」

慰めにかけてくれはったんやろうと思いながら、昭雄さんの言葉に頷いてた。
帰り道、悲しいんやけど、なんや、その奥に、小さな火がついたみたいな気持ちやったんよ。


戦争も、激しくなる一方で、あちらこちらで、闇市みたいなものが、出始めたり、1日一食が、当たり前になり始め、お腹の虫も、鳴くのを忘れてしまいよったって、お母さんが、笑ってた。
地主の奥さんが、家に一人、私が、工場に行ってる時に来はったらしい。
昭一郎さんの事を、丁寧に謝って行きはったと、お母さんに聞いた。
お母さん、私にえらく、優しくしてくれて、気落ちしないように言うて、なんや、かんや、声かけて、笑わしてくれてたわ。
私、確かに、沈んでしまってたんやろな。
傍目から見ても、声をかけずらい程、暗かったみたいで、女学校の友人も、噂は、すれど、声をかけて、話を聞いてくれる事はなかった。
まぁ、毎日が、人の事より、食べる事に必死な世の中やったから、余計やったんやろなあ。

夢を見たんは、地主さんの奥さんが家に来はって、一週間後ぐらいやったかな。
真っ白な、水兵姿の昭一郎さんが、真っ黒な鉄の塊に入って行くんよ