婆ちゃんの恋物語

千代ちゃんにとって、昭一郎さんが、その人だったって事、
千代ちゃんとの、友情は、継続出来た。ほんま、ホッとした、卒業式やったわ。


それから、一週間たった頃。3月13日、
午後11時57分から、B29による、空爆が始まって、焼夷弾が、霰のごとく降って来たんよ。町内の防空壕に、避難したんやけど。
ギュウギュウで、今の満員電車の中みたいな感じやなあ。空気が、薄くなる気がしたて、息苦しくなってた。赤ちゃん抱いた人が、入ってきたんやけど、赤ちゃんが、泣き出したら、憲兵みたいな、おっさんが、うるさいって、外にほり出してしまった。外の爆撃音を聞きながら、おっさんが、地獄の鬼に見えてたわ。空爆は、14日の午前3時半ぐらいまで、続いたんよ。
真夜中、狭い壕の中、母と祖母と三人、周りの人と話す事もなく、手を繋いで震えてた。警報解除になって、ぞろぞろ、壕から出て行き始めた時。

「良かった、避難してたんや。」

母と祖母は、その声の主を見るなり、慌てて、声の主の後ろに立ってた。品の良い、日本人形みたいな女性に挨拶し始めてた。声の主は、昭雄さんやったんよ。その後ろに立ってる女性は、お母さんなんやろなあって、ぼーっと見てた。

「探したんやけど、居なかったから、心配しててんで。お兄ちゃんから、お母さんとキミちゃんの事ちゃんと、見るように頼まれたからな。」

壕を出ながら、昭雄さんが、喋ってきはった。

私、なんか、心臓が頭に移動したんちゃうんやろかって、思う程、ドキドキしてたわ。不謹慎やなあ。爆撃で、街がどないなってるかわからないのに、

まだ、夜が明けてない街火災が、酷いみたいやった。
後で、解ったんやけど、扇町、西区、阿波座、焼けてもたらしい。
この辺り、火災も何軒か見えるけど、町内の男の人達が、消火を必死でやってたわ。

「ほな、失礼します。」
母の声で、我に返ったんよ。

「困った事あったら、言うて来て下さいね。」

丁寧に昭雄さんとおかあさんは、お辞儀して出て行きはった。

「あんた、地主さんの息子さんと、なんや、仲ようしてるんやて、年頃の娘が、あんまり、男はんと、喋りなはんな。よそさんが、見てはりますさかいな。」

壕を出て、家に向かう道すがら、お母さんに、お灸をすえられてしもた。