婆ちゃんの恋物語

私は、びっくりしてね。まだ、尋常小学校で、女学校にも上がってなかったからね。
千代ちゃんが、居てくれたら、巧いこと話してくれたんやろけど、私、喋りは、下手やから。その上、生まれて始めての事。

「頑張って下さい。」

答えになってないと、分かってたけど、出た言葉は、その一言やった。

「ありがとう。帰還したら、家によせて貰うから待っててな。」

昭一郎さんは、私の一言を良い返事と解釈しはったんやろなあ。
ニコニコしてはった。
私は、ぼーっとしたまんま。我に帰ったんは、家に戻ってからやった。

「おかあちゃん、うちな、昭一郎さんに声かけられてんで。」

帰って、一番にお母ちゃんに報告したんやけど。
「アホな事いいな。なんで、あんたに、声なんかかけてきはるかいな。居眠りして、夢見てたんちゃうの。」

まるで、信じてくれなかった。


女学校の試験も済んで、3月に入って卒業式も、数えるぐらいになって、千代ちゃんと久しぶりに、公会堂のベンチで、学校帰りに喋ってた。
学生服の下は、もんぺ。首に頭巾をぶら下げて、三つ編みの髪の毛。
女子の格好は、これが定番やったわ。