そして――出発の朝。
当日まで楓には『翼がついて行くこと』は伏せていた。
それは下手に告げてしまえば彼女の策略を変更することになり兼ねないからだ。
お前の企みは絶対に暴いてやる!
今回の俺はいつもの俺とは違うってとこを見せつけてやるんだっ!!


待ち合わせは屋敷の一階ロビー。俺は念のため女の恰好で望んだ。

「独断と偏見ではあるが翼も連れて行くことになった」

「楓!よろしくねっ!!」

彼女は翼の突然の登場に驚いていた。
こちらとしては当然の反応とでも言っておこう。

「あにいく翼は連れて行くわけに行かないの、だから白状するわよ。今回の温泉旅行は『陸上部の強化合宿』なのよ!」

――きょ強化合宿~っ!!!

「しかも!部員を十名まで揃えないと学園の施設予約できないって言われたの。おまけに申し込みもギリギリだったから、空きのある日が二十四、二十五日しかなくて!!」

因みにウチの学園は泊まりの合宿を行う場合、学園の管轄する施設以外は使うことは認められていないらしい。(翼曰く)

「……で、俺がその十人目の『部員』?」

「そうっ!その通りっ!!心配しなくてもほら!ちゃんと部員登録してあるから大丈夫。千晶が部活に所属してなくてよかったわぁ」

「……お前なぁ~っ!勝手に人の名前使うじゃねぇよ!!」
陸上部の部員リストに俺の名前がしっかり記載されている。

ったく!いつの間に登録したんだよ。

「そろそろ出発しないと電車に乗り遅れちゃう!千晶~!早く!!」

「あっ!ちょっと待て!!まだ話は終わってねぇぞ!!……翼?」

「行ってらっしゃい~合宿頑張ってね!」

えっ?

「だって……一緒に行くって」

「楓の企みも分かったわけだしさ!それに私は陸上部じゃないから、部員登録してないとどうせ施設にも入れないし」

「翼……?」

「はい。千晶、メリークリスマス!」

彼女は手に持っていた茶色の紙袋から取り出したそれを、俺の首に巻いてくれた――。
それは、
真っ赤な手編みのマフラー。

暖かい……。

「メリークリスマス……」