結局。
楓の言っていることは今の時点では嘘かもしれないということが判明した。
まだ翔さんの証言だけでは判断しにくい部分もあるのだが。

……俺の英語の成績が悪いことはともかくとして。

よし!翼に聞いてみるか。
そうすれば何か見えるかもしれない。

あいつの本当の『目的』が――。


「こんなとこで何しているの?しかも邪魔だし」

「っ……翼っ!?」

翔さんの部屋を出てから考え事して歩いてたら……いつの間にか。
バスルームの前に居た。
彼女はちょうど風呂に入ろうとしていたらしい。

「まさか……」
翼の視線が俺に刺さるのを感じながら。

「別に覗こうとかそんなじゃないぞ!!ちょっと考え事してて」

「考え事ね……そういうことにしておいてあげるわ」

「本当だってばっ!!楓が温泉行こうなんて言うから」

「温泉?」
バスルームへ続くドアノブにかけた手が止まる。

「翼は何か聞いてないか?翔さんは毎年行ってたって言うだけど、今年は旅館の改装工事しているから行かないって言うんだ」

「ううん、何も聞いてないわよ。それにお兄ちゃんの言うように今年は行かないことは決定していたんだけど……怪しいわね」

「なっ!!怪しいだろ!!しかも返事もしてねぇのに連行決定だし」

「えぇ!!もう!千晶がちゃんと断らないからいけないのよ!!」

「それができれば苦労はしないよ。あいつの強引さ……お前だって知ってるだろ」

「確かに……」

「また騙されるのは御免だぁ~!なんかいい方法ねぇか?」

「う~ん……そうね、こうなったら……」

「こうなったら?」

「私もついて行ってあげるわ!!」

という訳で楓の企画した謎の箱根温泉旅行。
連行される予定の俺は強力な助っ人、翼と共に旅立つこととなった。